
【図解でわかる】工事請負契約約款とは?初心者にもわかりやすく徹底解説
「約款って文字が多くて難しそう…」「現場でのトラブル、もしかして約款をちゃんと読んでいなかったせいかも?」──こうした不安や経験をお持ちの建設業関係者の方は少なくありません。建設工事では、契約内容をめぐるトラブルを防ぐためにも「工事請負契約約款」への理解が非常に重要です。しかし、その内容は法律用語や専門的な表現が多く、初めて読む方にとってはとっつきにくいものとなっています。
本記事では、工事請負契約約款の目的と構成、標準約款の種類と選び方、トラブルになりやすい条文の読み方を、国土交通省の標準約款の記載例を使って解説します。
【この記事の要点】
工事請負契約約款とは、工事請負契約書に添付・引用して使う、発注者と受注者の権利義務やリスク分担(工期や代金の変更、不可抗力による損害、契約不適合責任、紛争解決など)を定めた条項集です。国土交通省の中央建設業審議会が建設業法第34条第2項に基づいて標準約款を作成し、当事者に実施を勧告しています。
- 公共工事の場合:公共工事標準請負契約約款
- 民間工事(発注者との元請契約)の場合:民間建設工事標準請負契約約款(甲)(乙)、または民間(七会)連合協定工事請負契約約款
- 下請工事の場合:建設工事標準下請契約約款
約款 | 主な対象 | 作成者 | 入手方法 |
|---|---|---|---|
公共工事標準請負契約約款 | 国・地方公共団体などが発注する工事 | 中央建設業審議会 | 国土交通省サイトで公開 |
民間建設工事標準請負契約約款(甲)(乙) | 民間工事((乙)は個人住宅建築等の小規模工事) | 中央建設業審議会 | 国土交通省サイトで公開 |
建設工事標準下請契約約款 | 元請・下請間の工事 | 中央建設業審議会 | 国土交通省サイトで公開 |
民間(七会)連合協定工事請負契約約款 | 建築士の工事監理がある民間建築工事 | 建築関係7団体 | 構成団体等で販売 |
工事請負契約約款とは?初心者にもわかる基礎知識
約款とは何か?契約書との違い
約款と契約書はしばしば混同されがちですが、明確な違いがあります。
工事請負契約約款の定義
工事請負契約約款とは、建設工事の請負契約において、発注者と受注者の間の権利義務関係を定めた条項の集まりです。簡単に言えば、「このような状況になったら、このように対応する」というルールブックのようなものです。
契約書との明確な違い
工事請負契約約款と工事請負契約書は、しばしば混同されがちですが、明確な違いがあります。
- 工事請負契約書
・個別の取引における具体的な内容を記載
・工事名、工事場所、金額、工期など固有の情報
・当事者間で合意した固有の取り決め
・通常は1回限りの使用
- 工事請負契約約款
・一般的・標準的な取引条件を記載
・権利義務関係、リスク分担、紛争解決方法などの汎用的なルール
・多数の契約に共通して使用される定型的な内容
・繰り返し利用される
契約書と約款の関係を例えるなら、契約書と約款の関係は、特定のスポーツの試合とルールブックの関係に似ています。契約書は「〇月〇日に××場所で〇〇チームと△△チームが対戦する」という特定の試合の情報を定めるものであり、約款はその試合で適用される「サッカーのルールブック」のようなものです。どんな試合でも共通して適用されるルールが約款であり、個々の試合の詳細が契約書に相当します。
実務では、「工事請負契約書」に「工事請負契約約款」を添付または参照する形で契約が締結されることが一般的です。約款は契約書の「別紙」や「裏面」として添付されたり、「本契約は○○約款に準拠する」と契約書に記載したりすることで、契約の一部として効力を持ちます。
知っておきたい法的位置づけ
工事請負契約約款は、契約書に「本契約は○○約款による」などと適用を明記し、当事者が合意することで契約内容の一部となり、法的拘束力を持ちます。また、建設業法第19条第1項は、工事内容・請負代金・工期のほか、設計変更や不可抗力による損害の負担、価格変動による代金の変更、契約不適合責任、紛争の解決方法など16項目を契約書面に記載するよう定めています。標準約款は、これらの記載事項を条項として定めたものです(出典:建設業法(e-Gov法令検索))。
しかし、約款の中でも特に相手方に不利な条項については、相手がその内容を認識し、承諾していることが求められる場合があります。このため、重要な条項は契約交渉時に明示的に説明しておきます。
なぜ重要?トラブルを未然に防ぐ役割
工事請負契約約款は単なる形式的な書類ではなく、建設プロジェクトを守る「盾」としての役割を果たします。その重要性は以下の点にあります。
トラブル発生時の対応指針を提供
工期遅延、追加工事、天災など予期せぬ事態が発生した場合の対応方法を事前に明確化します。例えば、大雨で工事が遅れた場合の工期延長の手続きや、発注者からの設計変更があった場合の追加費用の算定方法などが約款に定められています。
建設工事は予測不能な要素が多く、当初の計画通りに進まないことも少なくありません。こうした事態に遭遇した際、その対応方法が明確になっていないと、発注者と受注者の間で認識の違いが生じ、トラブルに発展する可能性があります。約款はこうした「想定外の事態」に対する対応方法を予め規定することで、両者の認識を一致させる役割を果たします。
例えば、近隣住民からの騒音クレームがあった場合の対応責任や、地中から予期せぬ埋設物が発見された場合の追加費用負担、気象条件による工期延長の条件など、工事中に起こりうる様々な状況に対する「シナリオ」が用意されているのです。
リスク分担の明確化
発注者と受注者それぞれの責任範囲を明確にし、曖昧さを排除します。例えば、工事中の事故や第三者への損害が発生した場合の責任の所在が約款によって明確になります。
建設工事には様々なリスクが伴います。資材価格の高騰、労働者の確保難、天候不良、地盤トラブルなど、工事の進行を阻害する要因は数多く存在します。これらのリスクを誰がどの程度負担するのかを明確にしておかなければ、問題発生時に責任の押し付け合いになりかねません。
約款はこうしたリスク分担を予め明確にすることで、公平な契約関係を構築します。例えば、設計図書の不備による工事変更は発注者の責任とし、施工方法の不適切さによる欠陥は受注者の責任とするなど、リスクの種類に応じた分担の「地図」を提供しているのです。
法的保護の基盤
紛争になった場合の証拠として機能します。約款に基づいて適切に対応していれば、万が一訴訟になっても自社の立場を守ることができます。
工事中のトラブルが解決できず、最終的に法的手段に訴えるケースも少なくありません。そのような場合、約款は裁判所が判断を下す際の重要な判断材料となります。約款に基づいた適切な対応を取っていれば、自社の正当性を証明する強力な証拠となるのです。
例えば、追加工事の指示を受けた際に約款に従って書面による確認を取っていれば、後になって「そんな指示はしていない」と発注者に否定されても、自社の権利を守ることができます。約款は単なる「取り決め」ではなく、法的拘束力を持つ契約の一部であり、当事者を法的に保護する盾となるのです。
業界慣行の標準化
業界内での取引の公平性と透明性を確保します。標準的な約款を使用することで、取引の公正さを担保し、不公平な契約を防止する効果があります。
建設業界には長年の慣行によって形成された「業界の常識」が存在します。しかし、そうした慣行は明文化されないままでは、解釈の違いによるトラブルの原因となりかねません。標準的な約款はこうした業界慣行を明文化し、取引の透明性と公平性を高める役割を果たしています。
例えば、公共工事標準請負契約約款は、長年の公共工事の経験から導き出された公平なリスク分担の考え方を反映しており、民間工事においても参考にされることが多いです。このように約款は業界の健全な発展を支える基盤としても機能しているのです。
このように、約款はいわば「契約の保険」のようなものであり、その内容を理解していることで、不測の事態に対する備えとなります。約款の理解は形式的な法律知識というより、実務上のリスク管理ツールとして捉えるべきでしょう。
主な工事請負契約約款の種類と選び方
工事請負契約約款には様々な種類がありますが、代表的なものを紹介し、それぞれの特徴を解説します。適切な約款を選ぶことが、後のトラブル防止に大きく貢献します。
中央建設業審議会の工事請負契約約款
国土交通省の中央建設業審議会が、建設業法第34条第2項に基づいて作成した標準約款です。公共工事で広く使用される「公共工事標準請負契約約款」が代表的であり、民間工事向けの「民間建設工事標準請負契約約款」、下請工事用の「建設工事標準下請契約約款」も整備されています。
公共工事標準請負契約約款は、官公庁が発注する工事に適用される標準的な約款で、発注者と受注者の適正なリスク分担を目的としています。行政の立場と請負者の立場のバランスを取った内容になっており、公共工事の特性(予算の制約、透明性の確保、公益性など)を反映した条項が含まれています。
民間建設工事標準請負契約約款は、民間工事向けに開発されたもので、公共工事標準請負契約約款をベースにしながらも、民間取引の柔軟性を考慮した内容となっています。中小規模の建設工事で利用されることが多く、比較的シンプルな構成になっています。規模によって(甲)と(乙)があり、(甲)は比較的大きな工事を発注する発注者用で、(乙)は個人住宅建築等の民間小規模工事用となっています。
標準約款は法改正にあわせて改正されており、直近では改正建設業法の全面施行にあわせた改正が2025年12月12日に施行されています。契約に使う前に、国土交通省の標準約款のページで最新版を確認してください。
民間(七会)連合協定工事請負契約約款
建築関係の7つの団体(日本建築学会、日本建築士会連合会、日本建築士事務所協会連合会、日本建設業連合会、全国建設業協会、日本建築協会、日本建築家協会)が共同で作成した民間建設工事向けの約款です。発注者と受注者の対等な立場を重視し、契約書と約款が一体となった書式が提供されています。
この約款の特徴は、建築設計の専門家(建築士など)が関与することを前提とした内容になっていることです。工事監理者の役割や権限が明確に規定されており、設計変更や施工条件の変更などについても、監理者の判断を重視する仕組みになっています。
また、契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)についても、建築物の特性を考慮した内容となっています。
この民間(七会)連合協定工事請負契約約款は、無料で手に入れることはできません。基本的には委員会の構成7団体(日本建設業連合会を除く)の事務局、公共建築協会等で販売されています。
住宅金融公庫融資住宅工事請負契約約款
住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)の融資を受ける住宅建設向けの約款です。住宅建設に特化した内容で、消費者(施主)保護の観点が強く反映されています。
この約款は、住宅ローンを利用する一般消費者と建設業者の間の情報格差や交渉力の不均衡を考慮し、消費者保護に重点を置いた内容になっています。工事の品質確保、瑕疵担保(契約不適合)責任、支払い条件などについて、消費者に不利にならない規定が設けられています。
また、住宅の特性(長期間の使用が前提、居住者の安全性確保が最重要など)を考慮した内容となっており、住宅特有の問題(防水性能、断熱性能など)についても言及されています。
日弁連住宅建築工事請負契約約款(モデル)
日本弁護士連合会が作成した住宅建築向け約款です。消費者保護の色彩が非常に強く、法的紛争予防に焦点を当てた内容になっています。
この約款の最大の特徴は、建設業者と消費者(施主)の間の法的関係を明確化し、紛争を予防することに重点を置いていることです。法律の専門家である弁護士の視点から、訴訟になった場合のリスクを考慮した条項が多く含まれています。
例えば、工事の瑕疵(契約不適合)が発見された場合の対応手続きが詳細に規定されており、修補請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約解除などの選択肢とその条件が明確に示されています。
自社に合った約款を選ぶポイント
約款選びは、単に一般的なものを選ぶのではなく、工事の性質や自社の状況に合わせて選択することが重要です。適切な約款を選ぶことでリスクを低減し、円滑な工事進行につながります。
工事の種類による選択基準
工事の種類や性質によって、適切な約款は異なります。公共工事であれば中央建設業審議会の公共工事標準請負契約約款を、民間の一般建築であれば民間(七会)連合協定工事請負契約約款を、住宅工事であれば住宅金融公庫融資住宅工事請負契約約款や日弁連住宅建築工事請負契約約款などを選択するのが一般的です。
工事の規模や複雑さも考慮すべき要素です。大規模で複雑な工事では、詳細な条項が設けられた約款が望ましい一方、小規模でシンプルな工事では、必要最低限の条項を含む簡潔な約款の方が扱いやすい場合もあります。
取引相手による選択基準
取引の相手方によっても適切な約款は変わってきます。官公庁との取引では公共工事標準請負契約約款が基本となりますが、大企業との取引では相手方の指定する約款または民間標準約款をベースにするケースが多いです。個人施主との取引では、消費者保護の観点を重視した約款を選ぶことが望ましいでしょう。
特に個人施主との取引では、施主が建設の専門知識を持たないことが多いため、わかりやすい内容の約款を選び、丁寧に説明することが重要です。反対に、建設業に精通した企業との取引では、専門的な内容を含む詳細な約款が適している場合があります。
重視すべき項目による選択
自社が特に重視する項目や懸念事項によっても、選ぶべき約款は異なります。リスク管理を重視するなら責任分担が明確な約款を、柔軟な工事対応を重視するなら設計変更手続きが整備された約款を、支払い条件を重視するなら前払金や部分払いの規定が明確な約款を選ぶとよいでしょう。
例えば、地盤条件が不安定な土地での工事を請け負う場合は、地中障害物や地盤変更に関する条項が充実した約款を選ぶことで、リスクを低減できます。また、資金繰りが厳しい中小建設会社であれば、支払条件(前払金、中間払い、出来高払いなど)が明確な約款を選ぶことが重要です。
いずれの約款を選ぶ場合も、そのまま使用するのではなく、必要に応じて「特約」を加え、自社の事業実態に合わせてカスタマイズすることが望ましいでしょう。特約とは、標準約款の内容を補足・修正する条項のことで、工事の特性や当事者間の合意によって追加されます。
工事請負契約約款はどこで入手できる?
公共工事標準請負契約約款、民間建設工事標準請負契約約款(甲)(乙)、建設工事標準下請契約約款は、国土交通省のサイトで無料で公開されています。民間(七会)連合協定工事請負契約約款は無料公開されておらず、構成団体の事務局などで販売されています。
実務に直結!約款の構成と読み方
記載事項について
約款には多くの条項が含まれますが、特に重要な記載事項を理解しておくことが実務では欠かせません。以下に主な記載事項とその意味を解説します。
基本情報に関する記載
- 発注者・受注者:契約の当事者を明確に特定します。法人の場合は正式名称、代表者名、住所などを記載します。
- 工事名・工事場所:工事の対象や場所を特定する情報です。後のトラブル防止のため、具体的かつ明確に記載する必要があります。
- 工期:工事の着手日と完成日を明記します。工期は契約の重要な要素であり、遅延した場合の責任や違約金にも関わる重要事項です。
- 工事を施工しない日(時間帯):日曜・祝日の作業可否や作業可能時間帯などを明記します。近隣対応や法的規制に関わる重要な規定です。
【基本情報記載例:民間建設工事標準請負契約約款(甲)より抜粋】
金銭に関する記載
- 請負代金額:工事の対価として支払われる金額です。
- 支払方法:前払金、中間払い、最終支払いなどの支払い条件を規定します。支払時期や支払割合なども含まれます。
【金額情報記載例:民間建設工事標準請負契約約款(甲)より抜粋】
品質保証に関する記載
- 瑕疵担保責任の履行に関する措置:完成後に発見された欠陥に対する責任や保証内容を規定します。保証期間や対応方法も明記されます。
【瑕疵担保責任記載例:民間建設工事標準請負契約約款(甲)より抜粋】
紛争解決に関する記載
- 調停人:紛争が発生した場合の調停人や仲裁機関について規定します。紛争解決の手続きや費用負担についても含まれることがあります。
【調停人記載例:民間建設工事標準請負契約約款(甲)より抜粋】
その他重要事項
- 設計図書の優先順位:設計図面、仕様書、質疑回答書などの優先順位を明記することで、内容に矛盾がある場合の解釈基準を明確にします。
- 天災等の不可抗力の定義と対応:台風、地震などの自然災害が発生した場合の対応や費用負担について規定します。
【天災等の不可抗力への対応記載例:民間建設工事標準請負契約約款(甲)より抜粋】
- 第三者への損害責任:工事に関連して第三者に損害を与えた場合の責任の所在を明確にします。
【第三者の損害記載例:民間建設工事標準請負契約約款(甲)より抜粋】
建設業法で契約書に書くべき事項は?
建設業法第19条第1項は、請負契約の書面に次の事項を記載するよう定めています(第16号は国土交通省令で定める事項)。標準約款を使う場合も、契約書と約款を合わせてこれらが揃っているかを確認します。
- 工事内容、請負代金の額、工事着手と完成の時期、工事を施工しない日・時間帯
- 前金払・出来形部分に対する支払の時期と方法
- 設計変更・工事の中止があった場合の工期・代金の変更や損害の負担
- 天災その他不可抗力による工期の変更や損害の負担
- 価格等の変動に基づく工事内容・請負代金の変更
- 第三者に損害を与えた場合の賠償金の負担、注文者が提供する資材・機械
- 検査の時期・方法と引渡しの時期、完成後の請負代金の支払の時期と方法
- 契約不適合責任や保証保険契約の締結などの措置
- 履行遅滞などの場合の遅延利息・違約金その他の損害金
- 契約に関する紛争の解決方法
この条文には注意!トラブルになりやすい箇所の見方
約款の中には特に注意が必要な条文があります。実務上トラブルになりやすい箇所とその読み方のポイントを解説します。
工期延長条項
【注意点】
- 「天候不良による工期延長」などの曖昧な記載
- 延長申請の期限が厳しすぎる規定
- 延長理由の立証責任が一方的に課せられる場合
【実務対応】
- 工期延長の客観的な基準を明確にしておく
- 天候不良の場合は「作業不能日数」を記録しておく
- 延長申請は速やかに書面で行う
追加・変更工事の条項
【注意点】
- 口頭合意を認めない厳格な書面主義
- 追加工事の単価決定方法が不明確
- 変更工事の承認プロセスが複雑すぎる場合
【実務対応】
- 追加工事の指示は必ず書面で受ける
- 口頭指示の場合は確認メールを送るなど記録を残す
- 変更内容と金額を明記した書面での合意を取る
違約金・損害賠償条項
【注意点】
- 一方的に高額な違約金が設定されている
- 不可抗力でも免責されない条項
- 損害の範囲が過度に広い(間接損害まで含む)
【実務対応】
- 違約金の金額が適正か確認する
- 不可抗力条項の有無を確認する
- 損害賠償の範囲を明確にしておく
支払条件の条項
【注意点】
- 支払時期が不明確または極端に遅い
- 出来高払いの基準が曖昧
- 相殺条項が広範囲である
【実務対応】
- 具体的な支払期日を設定する
- 出来高の確認方法を明確にしておく
- 不当な相殺を制限する特約を設ける
契約不適合責任(瑕疵担保)条項
【注意点】
- 責任期間が法定よりも長期に設定されている
- 軽微な不具合でも全面的な責任を負う規定
- 修補方法の選択権が一方にのみある
【実務対応】
- 責任期間は適切か確認する
- 重大な瑕疵と軽微な瑕疵の区別を設ける
- 修補か損害賠償かの選択権を明確にする
これらの条項については、標準約款であっても、個別の事情に応じて「特約」として修正を加えることが一般的です。ただし、一方的に自社に有利な修正は、後のトラブルの原因となる可能性がありますので、公平性を保った調整が望ましいでしょう。
雛形そのままはNG?約款使用時の注意点とポイント
施主側に一方的に有利な約款内容とは
標準的な約款をそのまま使用するのではなく、内容をよく確認し、必要に応じて修正や特約の追加を検討すべきです。特に以下のような施主側に一方的に有利な条項には注意が必要です。
違約金の設定
- 問題となる記載例:「受注者の責めに帰すべき事由による工期遅延の場合、1日あたり請負代金の1%を違約金として支払う」
- なぜ問題か:請負代金の1%という数字は過大であり、受注者に過度の負担となります。一般的には請負代金の0.1%程度が相当とされています。
- バランスの取れた記載例:「工期遅延の場合、遅延日数に応じて請負代金の1,000分の1(0.1%)を違約金として支払う。ただし、違約金の上限は請負代金の10%とする」
工期延長の理由の曖昧さ
- 問題となる記載例:「発注者の指示による追加工事は、書面の有無に関わらず受注者は無償で対応する」
- なぜ問題か:追加工事には当然追加コストが発生します。無償対応を強いる条件は一方的であり、受注者の経営を圧迫します。
- バランスの取れた記載例:「追加工事は原則として事前に書面で合意した範囲・金額で実施する。緊急の場合は口頭指示でも可能だが、速やかに書面化し、金額は別途協議して定める」
近隣のクレーム対応について
- 問題となる記載例:「工事に関連する近隣クレームはすべて受注者の責任で解決する」
- なぜ問題か:近隣問題は工事の性質や立地条件にも左右されるため、一律に受注者責任とするのは不合理です。
- バランスの取れた記載例:「工事の施工方法に起因する近隣クレームは受注者が対応する。計画自体に起因するクレームは発注者が対応する。対応方針は双方協議のうえ決定する」
電子契約を活用する場合の注意点とポイント
建設業においても電子契約の活用が進んでいます。電子契約で約款を取り扱う際の注意点とポイントを押さえましょう。
電子契約の法的有効性
建設業法第19条第3項により、相手方の承諾を得たうえで国土交通省令で定める方法をとれば、電子契約は書面による契約と同じ扱いになります。なお、電子帳簿保存法は電子取引データの保存方法を定める法律で、電子契約の有効性そのものを定めるものではありません。電子契約利用のポイントは以下のとおりです。
- 電子署名法に基づく電子署名を使用する
- タイムスタンプにより締結時点を証明する
- 改ざん防止措置を講じる
約款の表示と同意確認
電子契約では、約款の内容を確実に相手方に示し、同意を得る手続きが重要です。実務上の注意点は以下のとおりです。
- 約款をスクロールして全文を確認できるようにする
- 重要条項は別途強調表示する
- 「約款に同意する」というチェックボックスを設ける
- 約款のダウンロードや印刷を可能にする
保存と管理のポイント
建設業法施行規則第28条により、帳簿とその添付書類(契約書またはその写しを含む)は、工事の目的物の引渡しから5年間(発注者と締結した住宅新築工事は10年間)保存する必要があります。電子契約書と約款も同様に保存します。管理のポイントは以下のとおりです。
- バックアップを定期的に作成する
- アクセス権限を適切に設定する
- システム更新時にも閲覧可能な形式で保存する
- 書式の陳腐化に注意し、定期的な見直しを行う
実務的な活用メリット
電子契約で約款を管理することで、以下のようなメリットが得られます。
業務効率化
- 約款の更新が一括で可能
- 過去の契約書検索が容易
- 印紙税の節約(電子契約は印紙税非課税)
リスク管理
- 条項の変更履歴を管理できる
- アクセスログにより閲覧状況を確認できる
- 重要条項の説明証跡を残せる
まとめ:約款の正しい理解が信頼と利益を守る
工事請負契約約款は、建設業における契約リスクを最小限に抑えるための「最後の砦」ともいえる存在です。「難解でとっつきにくい」と感じる方も多いですが、要点を理解すれば、現場で役立つ非常に頼もしいツールとなります。
自社の業務内容に合った約款を選定し、必要に応じて特約でリスクを調整。さらに、社内外への丁寧な説明と情報共有を行うことで、トラブルの芽を摘み、信頼に基づく関係づくりにつなげることができます。
加えて、契約や書類の管理をもっと効率化したい方には、建設業向けクラウドサービス「サクミル」の導入も有効です。案件ごとの情報や書類をまとめて管理でき、契約内容の共有にも役立ちます。契約をめぐるトラブルを防ぐ第一歩として、自社の約款運用や管理体制を見直しましょう。
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【この記事は2025年4月時点の情報に基づいて作成し、2026年10月に標準約款の改正・建設業法の条文に関する記載を更新しています。最新の法改正や約款の改定については各公式サイトでご確認ください】
監修者

中野 耐(なかの たい)
株式会社プレックス サクミル事業部 セールス統括マネジャー
保有資格: 建設業経理士2級
プロ野球選手を経て、株式会社リクルートキャリア(旧)、株式会社エス・エム・エス、株式会社Speee など複数のメガベンチャーで営業・マネジメント・事業立ち上げを経験。2023年7月に株式会社プレックスへ入社し、建設業向け現場管理システム「サクミル」の営業統括マネジャー兼カスタマーサクセスを担当。日々多くの建設企業と向き合い、現場の業務効率化やツールの導入・運用定着を支援している。原価管理や工事会計など建設業特有のバックオフィス領域にも明るい。
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