
左官とは?仕事内容・工法・資格・年収の考え方をわかりやすく解説
建設業の経営者・現場責任者の皆さまへ。「左官という職種の守備範囲がどこまでか分からない」「求人や外注先の選定にあたって、資格や単価の相場観をつかみたい」といった場面はありませんか。左官は、こてを使って壁や床を仕上げる古くからの職種でありながら、建設業法上は29に分かれる業種区分の一つとして明確に線引きされている専門工事でもあります。本記事では、左官の仕事内容と工程、主な工法と材料、資格の要件、年収や労務単価の考え方、そして担い手不足の現状までを、公的機関と業界団体の一次情報にもとづいて整理します。
左官とは?仕事内容と建設業法上の位置づけ
こてで塗り、面をつくる仕事
左官は、こてを使って下地に材料を塗り付け、平らな面や意匠のある面に仕上げる職種です。タイルや板を「張る」仕上げと違い、目地やつなぎ目のない一体的な面をつくれること、曲面壁やレリーフのような造形ができることが特徴とされています。仕上がった壁面が防火性や調湿機能を持つ点も、材料としての塗り壁の性質です。
左官職人の仕事は住宅の内外壁だけに限られません。モルタルによる下地調整や仕上げ、土間の仕上げ、外壁の補修、社寺建築や土蔵の伝統的な塗り壁など、さまざまな仕上げ作業に携わります。
建設業法における「左官工事業」の区分
建設業法別表第一に掲げられた業種の一つが「左官工事」(業種名は左官工事業)です。工事の内容は昭和47年3月8日建設省告示第350号で、「工作物に壁土、モルタル、漆くい、プラスター、繊維等をこて塗り、吹付け、又ははり付ける工事」と定められています。
実務で迷いやすいのが隣接業種との線引きです。国土交通省の業種区分、建設工事の内容、例示、区分の考え方によると、同じ「吹付け工事」でも、建築物にモルタル等を吹き付けるものは左官工事、法面処理等のためのモルタル吹付け・種子吹付けはとび・土工・コンクリート工事に区分されます。また、防水モルタルを用いた防水工事は左官工事業・防水工事業のどちらの許可でも施工でき、ラス張り工事や乾式壁工事は左官工事を行う際の準備作業として当然に含まれるものと整理されています。
左官工事の基本的な流れ
塗り壁では、材料や仕上げ方法に応じて、下塗り・中塗り・上塗りなど複数の工程に分けて施工することがあります。おおまかには次の順序です。
- 下地づくり:ラス張り、ボード張り、木舞掻きなど、塗り材料を保持できる下地を整える
- 下塗り:下地との付着を確保する層。乾燥収縮によるひび割れを先に出させる意図もある
- 中塗り:面の通りと厚みを揃え、上塗りの精度を決める層
- 上塗り:仕上げ材を薄く塗り、こてや刷毛でテクスチャーを与える
各層のあいだに乾燥期間が必要なため、左官工事は他職種との工程調整がそのまま品質と工期に直結します。
左官の主な工法と材料
日本左官業組合連合会(日左連)は、素材と工法(工法)で左官仕上げを用途別に整理しています。以下はその分類にもとづく概観です。
外壁を仕上げる工法
外壁では、コンクリート下地セメントモルタル塗り工法、セメントモルタル薄塗り工法、ラス下地セメントモルタル塗り工法が代表的です。いずれもモルタルを主体とし、下地の種類によって使い分けます。近年はひび割れ抑止や耐久性を高める材料・構法の研究が進み、通気層を設けたラスモルタル構法なども提案されています。
内壁を仕上げる工法(漆喰・珪藻土・プラスター)
内壁では、漆喰仕上げ、土佐漆喰仕上げ、ドロマイトプラスター仕上げ、せっこうプラスター仕上げ、大津壁仕上げ、珪藻土仕上げ、繊維壁仕上げなどが挙げられています。漆喰は消石灰に糊とすさを混ぜたもので、骨材を加えれば砂漆喰、顔料を加えれば色物になるというように、同じ結合材から幅広い表情をつくれるのが塗り壁の性質です。
土物仕上げと人造石仕上げ
土物仕上げには荒壁塗り、水捏ね仕上げ、糊捏ね仕上げ、三和土仕上げがあり、数寄屋建築や町家建築で用いられてきました。人造石仕上げは、人造石洗い出し仕上げ、現場テラゾ工法仕上げ、人造石研ぎ出し仕上げ、種石埋め込み仕上げ、リシン掻き落し仕上げなど、種石を見せる仕上げ群です。このほか合成樹脂の仕上げ、ローラー仕上げ、吹付仕上げといった現代工法も含まれます。
左官材料の構成
左官材料は、固める役割の結合材、かさを与える骨材、ひび割れを抑えるすさ、作業性を左右する糊・混和材料、色を決める顔料の組み合わせで成り立ちます。日左連の素材では、結合材をセメント系・石灰系・せっこう系・粘土系に分け、珪藻土やパーライトなどの鉱物性粒状物、麻すさや藁すさ、海藻糊やメチルセルロースといった糊材まで体系的に紹介しています。同じ「珪藻土の壁」でも結合材や配合が異なれば性能は変わるため、製品名ではなく仕様で確認するのが実務的です。
左官に関わる資格
左官技能士(技能検定)の等級と受検資格
左官技能士は、国家検定である技能検定の「左官」職種に合格した人の名称です。中央職業能力開発協会(JAVADA)によると、技能検定には特級・1級・2級・3級に区分するものと単一等級のものがあり、実務経験のみで受検する場合の年数は次のとおりです。なお日左連の技能検定試験についてでは、左官職種に特級は設けられていないと説明されています。
等級 | 実務経験のみで受検する場合 |
|---|---|
1級 | 7年以上 |
2級 | 2年以上 |
3級 | 6か月に満たない場合も受検可能 |
必要な実務経験年数は職業訓練歴や学歴によって短縮されます。3級の要件は平成25年4月から緩和されており、検定職種に関する学科に在学中の人や職業訓練を受けている人も受検できます。
試験の内容と合格基準
試験は職種ごとに実技試験と学科試験で構成され、実技の試験時間は概ね4〜5時間、学科試験は全国統一の日程で行われます。合格基準は100点満点で、原則として実技60点以上、学科65点以上です。試験問題の作成は中央職業能力開発協会が行い、実施は各都道府県(受検申請の受付は都道府県職業能力開発協会)が担います。受検を検討する際は、住所地の都道府県職業能力開発協会で最新の実施日程と要件を確認してください。
登録左官基幹技能者
現場をまとめる立場を目指すなら、登録左官基幹技能者が次の段階になります。日左連の登録左官基幹技能者によると、基幹技能者制度は建設業法施行規則の改正により平成20年4月1日から登録講習制度として位置づけられ、国土交通省に登録した機関が実施する講習の修了者は経営事項審査で加点評価されます。日左連は国土交通大臣登録機関として認定講習を実施しており、資格は5年ごとの更新講習が必要です。
左官職人の年収と単価の考え方
左官の年収は約467万円が目安
左官職人の年収を確認する際は、厚生労働省の職業情報提供サイト「job tag」が参考になります。
job tagの「左官」では、令和7年賃金構造基本統計調査を加工したデータとして、左官の賃金(年収)は466.9万円とされています。また、ハローワーク求人統計による求人賃金(月額)は29.2万円、有効求人倍率は6.7倍です。
ただし、これらは全国の統計値であり、実際の給与や求人条件は、経験年数、技能レベル、地域、雇用形態、勤務先の規模などによって異なります。特に左官は技能や経験による差が大きい職種であるため、平均値だけで個々の職人の給与水準を判断することはできません。
なお、賃金構造基本統計調査では職種の分類方法が年度によって異なる場合があるため、過年度の数値と単純に比較する際には注意が必要です。最新の統計を確認する場合は、厚生労働省のjob tagに掲載されている「左官」の情報を参照するとよいでしょう。
公共工事設計労務単価も相場を見る指標になる
賃金とは別に、建設業における労務費の水準を確認する指標として、国土交通省が毎年公表している「公共工事設計労務単価」があります。
令和8年3月から適用されている公共工事設計労務単価では、左官の全国平均は30,508円となっています。全国全職種の加重平均は25,834円であり、左官は全職種平均を上回る水準です。
また、令和8年3月から適用されている公共工事設計労務単価は、全国全職種の単純平均で前年度比4.5%の引き上げとなり、14年連続で上昇しています。
ただし、公共工事設計労務単価は、左官職人が実際に受け取る給与や、左官工事を請け負う際の1人工あたりの請負単価そのものではありません。都道府県や職種、工事条件などによって設定されるため、実際の取引価格とは区別して考える必要があります。
労務単価と実際の請負金額は別物
公共工事設計労務単価を見る際に注意したいのが、労務単価=請負金額ではないという点です。
国土交通省によると、公共工事設計労務単価には、事業主が負担すべき法定福利費などの必要経費分は含まれていません。そのため、下請代金に必要経費分を計上しなかったり、下請代金から必要経費分を値引いたりすることは不当行為に当たるとされています。
左官工事の見積もりでは、職人の人工を基準にする場合だけでなく、施工する面積や工法、使用する材料などを踏まえて工事全体の金額を算出する場合もあります。そのため、公共工事設計労務単価をそのまま民間工事の見積単価として使用することはできません。
実際の見積もりでは、労務費に加えて、材料費、運搬費、諸経費、法定福利費などを考慮する必要があります。人工を基準にした費用の考え方については「人工代」、建設工事全体の見積もり方法については「建設工事の見積書の書き方」なども参考になります。
左官職人の不足と後継者の現状
高い求人需要と担い手確保の課題
左官の仕事は、住宅の内外壁の仕上げだけでなく、改修・補修、意匠性の高い塗り壁、伝統建築などにも及びます。一方で、建築工法の変化によって、従来型の塗り壁が使われる場面が変化していることも左官業界を取り巻く環境の一つです。
人材確保の状況を見る指標として、厚生労働省のjob tagでは、左官の有効求人倍率は6.7倍とされています。これは、求職者1人に対して何件の求人があるかを示す指標であり、左官について求人需要が高い状況にあることが分かります。
また、job tagでは左官の就業者数を59,890人としています。ただし、この数字だけから将来的な就業者数の増減や、左官職人の不足数を直接判断することはできません。
左官は、施工に一定の経験や技能が求められる仕事であるため、技能を持つ人材の確保や育成は、個々の左官事業者にとって重要な経営課題です。特に熟練技能者から若手への技能継承は、長期的な担い手確保を考えるうえで重要になります。
業界団体と国の取り組み
担い手の確保や技能継承に向けた取り組みも行われています。
日本左官業組合連合会(日左連)は、昭和12年に創立された左官業界の団体です。公式サイトによると、正会員4,271名(令和8年5月22日現在)、賛助会員57社(令和8年7月17日現在)が所属しています。
日左連は、職業能力開発促進法にもとづく職業訓練や技能検定試験への協力、求人・求職の円滑化、労務管理の向上などを事業として掲げています。また、技能五輪全国大会の左官職種や青年部による活動など、技能の普及・継承や若手人材に関する取り組みも行っています。
国土交通省でも、建設業の担い手確保・育成や技能者の処遇改善に向けた施策を進めています。公共工事設計労務単価についても継続的な引き上げが行われており、令和8年3月から適用される単価は14年連続の上昇となりました。
まとめ
左官は、こてなどを使って壁や床などを仕上げる技能職であると同時に、建設業法上は29業種の一つとして位置付けられている専門工事です。建設業法上の左官工事は、「工作物に壁土、モルタル、漆くい、プラスター、繊維等をこて塗り、吹付け、又ははり付ける工事」と定義されています。吹付け工事や防水モルタルなど、隣接する業種との区分についても国土交通省が考え方を示しています。
資格では、国家検定である左官技能士が代表的です。実務経験だけで受検する場合、1級は7年以上、2級は2年以上が基本的な要件で、3級は6か月に満たない場合でも受検できます。さらに、現場での指導・調整などを担う技能者を対象とした登録左官基幹技能者制度もあり、修了者は経営事項審査で評価されます。
年収については、厚生労働省のjob tagによると、左官の賃金(年収)は466.9万円です。また、ハローワーク求人統計では求人賃金(月額)が29.2万円、有効求人倍率が6.7倍となっています。これらは全国の統計値であり、実際の給与は経験や地域、雇用形態などによって変わります。
労務費の水準を見る際には、国土交通省の公共工事設計労務単価も参考になります。令和8年3月から適用される左官の全国平均は30,508円で、全国全職種の加重平均25,834円を上回っています。ただし、この金額は実際の給与や請負単価そのものではなく、必要経費なども含まれていないため、見積もりでは材料費や諸経費などを含めて考える必要があります。
左官は高い技能が求められる職種であり、job tagの有効求人倍率も6.7倍となっています。人材確保や技能継承は、左官事業者にとって重要な経営課題の一つです。
担い手が限られる専門工事業者だからこそ、誰がどの現場に何日入り、どの工程にどれだけ原価がかかったのかを記録し、利益を把握できる状態をつくることが重要になります。
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